2012年3月16日金曜日

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次世代に引き継ぐ大震災の教訓
【第14回】 2012年3月16日
「リアルタイム精算」が電力市場を開放に導く
原発は緊急時の電源として位置づけるべき
――八田達夫・大阪大学招聘教授/学習院大学客員研究員

(1)http://diamond.jp/articles/-/16625
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ちょうど1年前、東京電力管内は東日本大震災によって引き起こされた福島第一原子力発電所の 事故で電力不足に陥った。計画停電が実施され、都内の都市機能は麻痺し大混乱に陥った。日本の電力システムはどのようにあるべきなのか。1年前の大混乱か ら何を学ぶべきものとは何なのか。電気事業分科会・規制改革会議などで電力自由化を提唱してきた八田達夫・大阪大学招聘教授/学習院大学客員研究員に話を 聞いた。
(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 片田江康男)

いまの電力供給体制は
非常に危険なシステムだ

はっ た・たつお/1943生まれ。経済学博士(ジョンズ・ホプキンス大学)専門は公共経済学。国際基督教大学教養学部卒。オハイオ州立大助教授、ジョンズ・ホ プキンス大教授、大阪大学教授、東京大学教授、国際基督教大学教授、政策大学院大学学長を経て、大阪大学招聘教授/学習院大学客員研究員。
Photo by Masato Kato
――電力市場の欠陥はどこにあったのか。
 一番の問題は、緊急時に価格のメカニズムが働かなかったということだ。思い返してほしい。震災後、電力供給量が減り需給が逼迫したのにもかかわらず、電力価格が上がらなかった。実は、大企業も全く同じ状況にあった。
 電力自由化の進んだ国では、需給逼迫(ひっぱく)時に価格が高くなり、利用者が需要を減らしたり、企業が自家発電を増やしたりする動機づけが働 く。日本にはその仕組みがなく、ユーザーは所定の料金で好きなだけ使える「使用権契約」を電力会社や新規参入の電力供給会社と結んでいる。
 価格が一定であれば、利用者は電力の使用を控えたり、自家発電で生産した電気を売却しようという動機が働かない。
 電力供給者である電力会社は需要に対応するため、過大な発電設備を持っていなければならない。したがって日本の電力供給体制は堅牢で、外国のよう に停電が起こることはほとんどなかった。しかし、これは電力が一旦逼迫すると、需給調整をする手段がない非常に危ないシステムだった。大震災後は、結局、 どんなに電力を必要とする人に対しても『計画停電』をする結果になった。


(2)

給電指令所が供給責任を負い
需給調整のための個別契約を結ぶ

――それには電力供給体制を根底から変える必要がある。どのように変えるのか。
 われわれが今回の震災を通して学んだもっとも重要なことは、需給逼迫時に価格が上がる電力システムにしなければならないということだ。
 電力は、需給を極めて狭い幅で一致させないと、周波数が変化して停電が起きるという特性を持っている。停電を防ぐため、給電指令所は、時々刻々と 送電線上の周波数の変化に反映される需給のギャップを監視して、需給を合致させるよう手を打つ。給電指令所は、需要が供給を大きく超えている場合には、そ のための契約をしている需要家のブレーカーを切って需給調整をする。
 現在の日本でも、需給調整契約という契約が行われているが、これは時間ごとの入札ではないので、停電1時間に対する対価が極端に低い。このため「計画停電」や夏の「電力制限令」を避けられなかった。
 自由化諸国では、大口ユーザーが、この価格さえ払ってもらえればブレーカーを切られてもよいという価格を、入札する。素材産業などはその例だ。日 本でも逼迫時にユーザーの節電を促すためには、大口ユーザーからリアルタイムで調整電力を購入する入札制度を始める必要がある。
 そうすれば給電指令所は、需要超過の場合には、追加発電費用の安い順に待機発電所に追加発電を命じて不足を埋め、足りなければ、契約している大口ユーザーに代償を払って節電を指示する。このような「調整電力入札制度」を作ることが、電力供給の安定に大きく貢献する。
 給電指令所がこの入札制度で需給調整をするのに必要な最終的な瞬間ごとの電力購入価格(必要な追加発電費用あるいはユーザーに払う入札価格)を、 「リアルタイム価格」という。ただしリアルタイム価格は、それより安く入札したユーザーにも支払われる。したがってユーザーは正直に安い入札価格を入れて も逼迫時にはそれより大きな節電への報酬を受け取れる。このため、多くの企業が遮断入札に応じるのである。

(3)

――「調整電力入札制度」に参加する特別なユーザー以外の大口ユーザーや発電会社は、価格変動に直面しないのか。
 一般のユーザーも新規発電者も全体の需給ギャップをゼロに近づけることに貢献するメカニズムがある。それが「リアルタイム精算」だ。
 まず、リアルタイム精算を希望する大口ユーザーは時間帯ごとの計画電力使用量を、またこの精算を希望する新規参入の発電所は時間帯ごとの計画発電量を、実際の取引日の前日に、給電指令所に対して届出る。
 取引用には、大口ユーザーや発電会社の毎時の実績値は、自社に設置されているリアルタイムメーターによって計測される。この実績値と前日に届け出 た計画値との差分を、給電指令所との間で、調整電力入札制度で確定したリアルタイム価格で精算する。これを、「リアルタイム精算制度」という。
 例えば、給電指令所は、この精算で計画量より需要量が多いユーザーにその超過使用量を売却する。さらに計画量より需要量が少ないユーザーからは、その節電分を購入する。節電分は一種の発電とみなすわけだ。
 当日急に発生した原因でシステム全体の電力需給が逼迫すれば、リアルタイム価格は高騰する。この時、前日に計画使用量を届け出た大口ユーザーが節 電すると、計画量からの節電分を給電指令所に高く買ってもらえ、同様に計画発電量を届け出た発電所が追加発電すると追加発電分も高く買ってもらえる。この ためリアルタイム精算制度は、電力逼迫時に大口ユーザーに節電動機を与え、発電所に追加発電の動機を与える。
 「調整電力入札制度」と「リアルタイム精算制度」とは、リアルタイム価格を共通の価格としているから、全体で一つの「リアルタイム市場」を形成している。給電指令所は「調整電力入札制度」で卸取引をし、「精算制度」で小売りの売買をしているとみなすことができる。
 今年の夏までに「リアルタイム市場」を整備することが、夏の停電防止に役立つ。しかも、これがその後の電力供給体制改革の第一歩になる。

給電指令所だけの独立ではなく
「発電」と「給電指令所+送電」に分割すべき

――発送電分離が必要だと言われるが、具体的にどのような形が日本にもっとも合っている形なのか。
 発電事業者間の競争を促すには、給電指令所は公平にすべての発電事業者を扱う必要がある。それによって実力のある新規参入者が公平に参入できるよ うになる。いまのように発電と送電とを同じ会社が持っていると、どうしても公平に扱うことは難しくなる。したがって、発送電分離が必要である。


(4)
 今、給電指令所だけを独立させて、発電と送電は一体のままに使用できる改革案が有力なようだ。確かに、給電指令所が発電部門と分かれることで、今 よりは、公平性は保たれるかもしれない。しかし、発電と送電が一体の電力会社だと、発電部門が送電線の敷設に影響力を持ってしまうことになる。そうする と、例えば新規参入者がある場所に発電所を新設する際に、電力会社は、何かと理由を付けて送電線を引かないかもしれない。既存の発電所に対して修理が必要 だとして送電線の使用を制限する場合もあるだろう。したがって、給電指令所だけを独立させることは、新規の発電業業者を不利にする。電力供給体制として は、「発電」と「給電指令所+送電会社」という形が理想だ。
 発電・送電のあり方を考える上ではエネルギーセキュリティへの影響も重要な要素だ。しかし、発電所の不調による需給逼迫がもたらす停電は、基本的 には市場で防げる。すなわち価格メカニズムを機能させるようになれば、逼迫時には、価格の急騰によって最終的には需給を調整できる。しかし、発電不調以外 の原因による停電を防止するためには、停電防止の責任を一元化して、停電に対する賠償を義務付けるなど、国による規制が必要である。発電不調以外の停電原 因の代表例は、送電線の問題やリアルタイム市場の運用の失敗などである。
 送電部門と給電指令所が分かれてしまうと、停電したときの責任はどこにあるのかが不明確になってしまう。給電指令の運用で間違ったということで、 給電指令所に責任があるのか、または送電会社の送電線のメンテナンスに問題があったのか。そういった責任の所在があいまいになる。給電指令所と送電会社は 一体にしておくべきだ。
 東京電力を会社分離のモデルケースにすべきだ。そのためには、今からでも遅くないから東京電力を法的に破綻させ、投資家に責任を負わせるべきだ。そうしなければ、同様の事故を防ぐ動機を他の電力会社の投資家に持たせることができない。
 破綻の後は、一定期間国有化した後に新東京電力として上場する必要がある。新東電は基本的に給電指令所と送電部門を持つ会社になる。現東電の株主 や債権者が払い切れなかった賠償は国が行うことにし、新東電は、賠償責任から自由な会社となる。国有化期間中に、発電所を売却することによって発送電分離 を達成できる。いくつかの売却先には東電の現社員が雇われ、社長として就任するかもしれない。
 他方で他の電力会社には、自発的に発送電分離を選択したくなるように、適切な競争政策を適用するべきであろう。

CO2対策は炭素税を導入せよ
原発は事業者と利用者に選ばせる

――これまで「二酸化炭素(CO2)を発生させず環境に良いから原子力発電を推進する」というのが原発推進者が使う論理だった。原発の再稼働は困難で、CO2の問題が残る。

まず、本当にCO2対策をするなら、発電用、高炉用、輸送用などの用途に関係なくエネルギー源に対してCO2の排出量に応じて炭素税を導入するのが本来の姿だ。これは、CO2を排出する電源をその分不利にして、その使用を抑制する。


(5)
 実際には、日本政府はCO2対策として、炭素税を導入するのではなく、原発に直接間接の補助金を与える政策を行ってきた。この補助金は、効率的な温暖化対策ではない。例えば、CO2削減に有効な石炭からガスへの転換も、発電効率を上げる石炭のガス化の技術開発も、炭素税と違って、一切促進しない。
 原発は、それ自体も、使用済み燃料処分の社会的コストや事故発生の危険性など大きな外部不経済を発生させる。それら全ての外部不経済が発生させる 費用にも税をかけて、電源の利用者にその外部費用を負担させた上で、発電事業者に電源の一つとして原子力を選択するか否か決めさせればよい。もちろん、原 発を稼働させるには、今回の事故でわかったフィルタードベントの欠如等の明らかな欠陥を全てなくすことは大前提だ。

原発はバックアップ電源として
給電指令所が契約することも一案

ところで、エネルギーセキュリティの根本対策は、石油や石炭の備蓄だ。したがって、燃料の備蓄が安価な電源である原発を使えなければ、エネルギー セキュリティ上不安だという説もある。しかし日本では、石油を半年間しか備蓄していないのであるから、輸入が止まって半年すれば、トラクターも、トラック も、工場も動かなくなり、日本経済は止まる。その後にまで発電できるように備える必要はない。
 ただし現在時点で発電のかなりの割合を依存しているガスに関しては、備蓄が難しい。サハリンからのパイプが建設され、米国からLNGが輸入される ようになるまでは、国際情勢によってガス発電の供給に不安があることは事実だ。これまでエネルギーセキュリティーに関して原発に頼り切っていた日本で、ガ スインフラが整備されるまでの期間、原発の役割は残る。
 すなわち、原発を電力需給が逼迫したときだけ再稼働させるということもありうる。給電指令所が待機電力(天然ガスの輸入途絶が起きる際に備えての バックアップ電源)として原発を保有する発電会社と契約する形も考えられる。原発を待機させておくことにすれば、稼働時間が従来よりもはるかに少なくなる ので、事故リスクはその分減るし、今ほど大量の使用済み燃料が出ないため、使用済み核燃料の処理のために必要な資金も減るだろう。
――スマートメーターの導入についても政府で検討されている。東京電力側が抵抗しているが、これについてはどう考えるか。
 スマートメーターは、価格の変動によって需要を減らしたりするデマンドレスポンスを細かく制御するメーターだ。スマートメーターを導入するにして も、大前提として「リアルタイム精算」があり、需要家が直面する価格が時々刻々変化するのでなければ役に立たない。反対に価格が変動する市場ができれば、 スマートメーターは、放っておいてもどんどん導入されるだろう。とにかく「リアルタイム精算」を導入することによってすべてが始まる。


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